教育誌『クレスコ』寄稿と掲載のお知らせ

大月書店『クレスコ』2021年9月号に、「今こそ地域の絆・連携を」というタイトルで多様な学びプロジェクト副代表の萩原裕子が寄稿いたしました。




「今こそ地域の絆・連携を」

萩原 裕子(はぎはら ゆうこ)

FUTURE DESIGN副代表


 コロナ禍による「新しい生活様式」は、不登校の子どもが日常的に直面している環境によく似ていると感じます。自由に外に出られない、イベントへの参加や友達との交流が制限される状況は、情緒的、肉体的にストレスを感じさせるものです。


 私たちの主催する「多様な学びプロジェクト」では、4年前から不登校の子どもが抱える生きづらさやストレスを和らげる取り組みに力を入れてきました。活動を続けるなかで、子どもの感じるストレスの多くが過度の「緊張感」と結びついていることに気づきました。細かなルールの存在は「きちんとしなければ…」「失敗してはいけない」という気持ちの張りを生み出しているのではないでしょうか。


 本稿では、積極的なリラックス効果が得られる「コドモ農業大学」の活動についてご紹介します。「コドモ農業大学」とは、子どもが地域の農家に本格的な野菜の育て方を学び、自らが収穫物の販売までを実践する体験型の活動です。舞台は郊外の農地。開放感に溢れ、大声を出しても、走り回っても叱られません。静かに植物や生き物を観察して過ごすことも許されます。ここには多種多様な仕事が待っており、体を動かしたいなら土を耕し、細かい作業が好きなら種撒きといった具合に自分にぴったりの活躍の場があります。また、仲間との交流も自由。協力するもよし、遠巻きに作業するもよしです。集団生活でみられる「みんなと同じように行動すべき」という圧力はありません。気づくとそこかしこで笑い声や、ブツブツと呪文のような独り言が聞こえてきます。子どもが自由に行動を選べることを何よりも大切に考えています。


 自然の「癒やしの力」も助けになっています。「体は疲れるけど、心は休まるね」と、ある子どもがにっこりと教えてくれました。自宅で過ごすことが多い不登校の子どもにとって、太陽を浴び、風の音を聴き、草花の匂いを嗅ぎ、生き物を見つけ、季節の移り変わりを肌で感じることは五感を刺激し、心を開放させてくれます。また、自然は同伴する保護者の心をも開放してくれます。私も2児の母親なのですが、子どもは人知れず大人の不安を敏感に察していると感じます。精神的に余裕がなくなると、子どもの情緒にも影響が及ぶのではないでしょうか。農作業の帰り道は、親子の何気ない会話に充実感した表情をみてとることができます。つかの間ですが、大人も日常を離れて緊張をほぐすことで、子どもによい影響があるようです。


 ただし、このような効果は、環境、時間的な余裕、少人数での活動等の条件が整った場合に得られやすいのかもしれません。同じ方法を学校で実現することは制約が多いことでしょう。そこで、家庭、学校、地域、行政が有機的に連携し、お互いの足りない部分を補い合うことができれば、ともに子どもを見守り支えていく新たなアプローチになるのではと考えています。


 昨今の報道では、コロナ禍による子どもの不調や不登校が増えていると聞きます。子どもや保護者に登校への葛藤があるならば、新たな選択肢として「コドモ農業第大学」のような「子どもの居場所」で少し羽根を休めるのはどうでしょうか。あるいは「子どもの居場所」を中心としつつ、可能なタイミングで登校することもよいと思います。個別の状況に応じた柔軟な流れができれば理想です。


 今年から地域の子どもを見守る大人たちの集まり「さいまーる」が開始されました。毎月、さいたま市内の有志が、子どもの情報を共有し、膝を突き合わせて課題解決を目指しています。参加者は子ども食堂や地域の無料塾の運営者、公的施設の職員、県職員、大学職員など異なる背景をもつ社会人で「コドモ農業大学」とも連携しています。


 コロナ禍は社会に大きな変化をもたらしました。私たち大人も柔らかい思考で、移りゆく子どもの心の機微と必要を支えられる存在になれたらと思います。みなさまからも「子どもの居場所」へのご理解とご協力を賜れば、これに代わる喜びはありません。


 「多様な学びプロジェクト」では、リアル&ネットで「子どもの居場所」を運営しています。2021年7月より全国約400カ所の「子どもの居場所」をネット検索できるポータルサイト「街のとまり木 BY 多様な学びプロジェクト」を公開中。また保護者や子どもに関わる大人向けのオンラインサロンも随時開催中。詳細は公式HP参照。

https://www.tayounamanabi.com/


 

2021年12月号では表紙および扉ページでも取り上げていただきました。